人間はなぜ物事を覚えきれないのだろうか。慶應義塾大学教授の今井むつみさんの書籍『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策』(日経BP)より、記憶についての解説をお届けする――。

飼いネコを獣医に連れていって気づいたこと

先日、飼いネコにマイクロチップを入れようと思い獣医さんに連れて行きました。

「2022年6月以降に新たに犬やネコをペットショップやブリーダーから購入する場合は、マイクロチップの装着が必要」というニュースを見たからです。

いつもの獣医さんにマイクロチップを埋め込んでもらい、その後、リーダーの番号とチップの番号が合うかをチェックしてもらいます。

しかし、なぜかそれが合わない。「あれ? あれ?」と獣医さんも慌てています。

そして数分後、意外なことがわかりました。なんと、うちのネコは、今回埋め込む前から、別のチップがすでに入っていたのです。

最初のチェックの際に反応していたのは、その古いチップでした。新しいチップのほうもその後、反応したことで、今回の顛末が明らかになったのでした。

別のチップがすでに入っていた
写真=iStock.com/mapo
別のチップがすでに入っていた(※写真はイメージです)

説明は受けたものの、記憶をなくしていた

さて問題は、古いほうのマイクロチップは誰が、いつ入れたのか、です。

その獣医さんには長く通っていますが、カルテに記録はなく、獣医さん自身も、うちのネコにマイクロチップを入れるのは今回が初めてと言っていました。では誰が?

そのとき、それまではまったく覚えていなかったのですが、ペットショップで購入した際に業者が埋め込んだということを思い出しました。

説明は受けたものの、その後、すっかりその記憶がなくなってしまった、というわけです。

結局、そのときに埋め込んだ新しいチップを取り出さなければならず、ネコには余分に痛い思いをさせてしまいました(ごめんね、ゆきちゃん)。